うんざりブログ

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 草が生えた。口元が綻ぶ。思わず笑みを浮かべずにはいられない。

 草が生えた。荒涼とした死の大地に、ほんのわずかではあるが、たしかに新しい生命が芽吹いた。実に三十余年ぶりのことだった。

 かつてこの惑星は豊かな生命に満ちていた。複雑な生態系の中であらゆる生命は他者と干渉しながら生きていたのだ。到底すべてを知ることはできないほどの多種多様な生物がこの世に誕生した。

 その一方で絶滅した種も数え切れないほどあった。かつて栄華を極めた種ですら、茫漠とした時間の中でその姿を消した。それは長い地球の歴史にすればわずか一瞬の煌めきに過ぎなかった。

 そして我々ホモ・サピエンスがおよそ二十万年あまり前に生命を受けた。アフリカ大陸を起源とする二足歩行の動物はやがてその支配域を全世界に広げ、生態系の王座に新たに君臨することになった。

 我々の紡いだ歴史は、やはりこれまでと同様に刹那に過ぎなかった。しかしそれがこの美しい惑星における最後のものになった。

 私が幼かった頃、すでに我々の世界は宇宙にまで広がっていた。先人たちが見上げていたばかりの青い空は、やがて暗闇として目の前に現れたのだ。草木の生い茂る大地や生命を育む海洋を遥か眼下に眺めながら、ついに我々は神の領域へと手を伸ばしていた。圧倒的な支配者たる人類にとって地球という惑星はいささか狭すぎたのだ。

 人類は他の惑星へと進出をはじめていた。地球の歴史上で最も支配的な生物となった我々の努力の結晶たる叡智を持ってすればテラフォーミングなど決して夢物語ではなかった。大国同士が競い合うように宇宙開発に乗り出し、自国の科学技術を互いに誇示した。

 宇宙にばかり目を向けた人類はだんだんと故郷への愛情を忘れていった。人々にとって地球はもはや唯一の存在ではなくなっていた。実際その頃には地球以外の惑星への移住計画が具体的に進められていた。そして他の惑星を巡る国家同士の争いは激しさを増していた。そうなれば我々の行き着くところは決まっていた。歴史は繰り返すのだ。

 かつてのそれとは比べ物にならないほどの激しい争いが行われた。他の惑星すら掌握するほどの科学技術による攻撃は、地球に住む生物をすべて死滅させることに何らの困難も持たなかった。こうして我らが青き惑星は、ある生物種の傲慢極まる振る舞いにより、その積み重ねてきたすべてを灰燼に帰すことになった。

 残されたのは地球外に脱出することができたわずかな人々だけだった。我々は他の惑星で生活することを決めた。もちろん地球上での生活よりずっと不便なものだった。

 しかしそんなことは故郷を失った悲しみに比べれば小さな問題だった。我々の想いはやはり母なる地球の元に有った。草木の生い茂る大地や生命を育む海洋が何よりも恋しかった。

 そして、草が生えた。己が手ですべてを壊してしまった星に新しい生命が芽吹いた。古き友人よ、君が最後に遺した言葉は正しかった。草は生えたのだ。

 草が生えた。これから気の遠くなるような時間をかけて、地球はかつての姿を取り戻すかもしれない。おそらく私はそれを見届けることはできないだろう。それでもその可能性の小さな萌芽を確認できただけで十分すぎるくらい幸福なことに違いない。

 いつの日かきっと、あの素晴らしい惑星の遺伝子を受け継いだ私たちホモ・サピエンスの子孫が、再び地球の大地を踏みしめることだろう。そこでとびきりの笑顔の花を咲かせることを信じている。