うんざりブログ

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小説

輪廻

「生まれ変わっても一緒に生きようね」 彼女はそう言って僕の手を握った。包み込むように重ねられた白い手は、磊落な彼女には似つかわしくないほど繊細だ。僕は何も言わずに彼女を抱き寄せる。息遣いには一瞬の驚きが混じりこみ、それが安らかな吐息へと変わ…

写真

「ずっと前から気になってたんだけど」 テーブルを挟んで向こう側に座っている彼が口を開いた。どうやら私になにか言いたいことがあるらしい。遠慮気味の口調からは、随分と逡巡した様子が伺えた。 「なに?」 わざと冷たく返事をしてみる。グレーのシャツを…

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草が生えた。口元が綻ぶ。思わず笑みを浮かべずにはいられない。 草が生えた。荒涼とした死の大地に、ほんのわずかではあるが、たしかに新しい生命が芽吹いた。実に三十余年ぶりのことだった。 かつてこの惑星は豊かな生命に満ちていた。複雑な生態系の中で…

チンポテト

「チンポテト」 目の前のテーブルの上には奢侈な料理がところ狭しと並べられている。その官能的な光景に舞い上がった私は、大皿に山盛りの細長くカットされたジャガイモのフライを手に取ると、小さな容器に用意されたケチャップとマヨネーズの間を泳がせるよ…

寒さ

「テレビのニュースなどでは連日『二十年に一度』と報道されていたような気がする。大きな寒波に見舞われた年だった。たしかに現在に至るまであの時よりも寒い冬はまだ来ていない。 しかも、まさにその冬一番の積雪を記録した、そんな日に、私はとぼとぼと一…

論理的な愛

「あなたのこと愛しているわ」「僕だって負けないくらい愛しているさ」 二人の口から紡がれる言葉はお互いの心を存分に焦がしてから、窓の外に広がる闇夜に溶けて消えた。あたりにはまだその余韻が漂い、だんだんと近づいていたはずの冬もくるりと踵を返した…

靴ひも

あらためて自分の身体というものを考えてみるとよくできているものだと思う。頭からつま先にいたるまで細かな血管が張り巡らされ、決して滞ることなく血液が循環し続けている。もちろんこれは僕たちがこんこんと眠りこけている間であってもである。もしもこ…

昼下がりの教室。開いた窓に吹き込む柔らかな風がベージュ色のカーテンをふわりと揺らしていて、そこから差し込む太陽の光が綺麗に並べられた机のひとつに暖かな影を作っている。クラスの男子のほとんどはグラウンドでサッカーをしていた。いつもそうだった…

セミ

あれは小学六年生の夏休み、相も変わらずひどく暑い日のことだった。僕を一日のあいだずっと天から睨みつけていた太陽はとうとう西の彼方にその姿を隠してはいたが、最後の抵抗とばかりに空を橙色に染め上げ、気温こそ少しだけ下がったものの、辺りの空気は…

せかいのおわり

彼女がまばたきをしたら世界が終わってしまった。 どうか僕のことをおかしいと思わないでほしい。怪しい宗教に目覚めたわけでもないし、薬物乱用の末に幻覚を見ているわけでもない。もしも僕がおかしくなっていると思うのであれば、それはあなたも気がつかな…

救い

男は電車に揺られていた。いくつかの路線を乗り継いで目的地を目指していた。長い時間をかけての移動となると普段であれば早々に眠りこけてしまうところであるが、その日はボンヤリと外を眺め続けた。穏やかな空模様の移ろいのように、窓越しの景色はゆっく…

手帳

その島にはバラバラになった古い機体そして一つの死体があった。 かつて彼らが乗っていた飛行機が付近の海上にて突如としてその消息を絶った。異常を知らせる前振りなど全くないままある瞬間にレーダー上からその姿を消したのだ。 近隣の国からの協力も得て…